父の庭先から『椿』

1月も半ばになって、やっと椿が咲く。
日当たりの悪い地面は、霜柱が解けることはない。

その上雨の多い今年は、エサもないのか、蕾のうちに、鳥につつかれ、満足に咲けないうちにたいがいは落下してしまう。

母が好んで描いた肥後椿の鉢植えは、父が亡くなって、ひと月もしないうちに枯れてしまった。
「肥後のお殿様が愛した花だから大事にしてね」
「藩の外に出すことは許されなかったそうよ」
そう話してくれた母だが、真偽のほどは知らない。

花芯が大きく重く、いつもうつむいている姿しか思い出せない。
軒下に置かれたまま、葉をすべて落としきるまで、だれも気づいてやれなかった。
その幹は生白く、すべすべしていて、人の骨のように見えた。

父の庭には、名前の違う7本の椿があるが、父が特別椿を好きだったわけでもない。
兵隊毛虫に大騒ぎしては、かまわず殺虫剤を振りまき、「椿には気をつけろ!」が今になっては遺言。

今年は道路沿いの大倫の白い椿がいくつも咲いた。
大きく育った柿の下で、いつも窮屈そうで、気の毒に思っていたが、今年は虐める者がいなくなって、のびのびできたのかもしれない。

「椿を病気のお見舞いにもっていってはダメよ」
ポトリと落ちる真っ赤な花房に、なんだか不吉を感じて好きになれなかった。

だが、母は、沢山の庭の椿を描いた。
何よりも風情があるという。
墨の濃淡に雪の白さや、鮮やかな朱色を感ずるようになったのはこのごろのことである。

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この記事を書いた人

6月生まれ
そのせいか、寒さより、暑さに強い
限界を超えた体重に苦慮して、昨年、カーブス入会
見た目より、感傷的で繊細(と自分では思っている)

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